大綱P91の金融所得課税に関する住民税の改正について、今回は冷静に事務的に疑問をぶつけてみます。
もう1度引用
疑問があるのは炎上してる①ではなく、②のほう。
キャピタル・ゲイン及びロスの数値を所得税と一致させるには、②イが必要なのですが、現行制度では例えば下記のようなケースが問題です。
令和元年分:分離課税の投資損益がマイナス60万
令和2年分:分離課税の投資損益がプラス60万
→令和3年3月1日(確定申告期間)に令和元年分・2年分をまとめて確定申告
この申告をやると投資利益には所得税も住民税もかからないと思うでしょうが、実際には住民税だけは60万円×5%だけかかってきます。(国保加入者であれば60万×所得割料率も)
なぜかというと、令和元年分の所得に対してかかる令和2年度の住民税額決定日(令和2年5~6月)までには、令和元年分の損失申告を行わないと住民税において繰越控除を認めない旨の規定が地方税法にあるからです。
※条文は難しいので、赤文字のところだけでも読んでください。赤文字を中心にした条文を削除すれば所得税と一致します。
地方税法 附則第35条の2の6第5項(一部略)
道府県民税の所得割の納税義務者の前年前三年内の各年に生じた上場株式等に係る譲渡損失の金額(この項の規定により前年前において控除されたものを除く。)は、◆中略◆申告書◆中略◆を提出した場合(市町村長においてやむを得ない事情があると認める場合には、これらの申告書をその提出期限後において道府県民税の納税通知書が送達される時までに提出した場合を含む。)において、その後の年度分の道府県民税について連続してこれらの申告書(その提出期限後において道府県民税の納税通知書が送達される時までに提出されたものを含む。)を提出しているときに限り、◆中略◆当該上場株式等に係る譲渡所得等の金額及び上場株式等に係る配当所得等の金額の計算上控除する。
となると、令和2年分のキャピタルゲイン・ロスも所得税はプラマイゼロなのに、住民税は前年のロスが無効となって60万円のキャピタルゲインとなり、不一致が生じます。
こうした規定は「上場株式等」だけでなく、「先物取引」にもあり、先物取引に係る雑所得等でも所得税との不一致はおこりえます。
地方税法附則第35条の4の2第1項(一部略)
道府県民税の所得割の納税義務者の前年前三年内の各年に生じた先物取引の差金等決済に係る損失の金額(この項の規定により前年前において控除されたものを除く。)は、◆中略◆申告書◆中略◆を提出した場合(市町村長においてやむを得ない事情があると認める場合には、これらの申告書をその提出期限後において道府県民税の納税通知書が送達される時までに提出した場合を含む。)において、その後の年度分の道府県民税について連続してこれらの申告書(その提出期限後において道府県民税の納税通知書が送達される時までに提出されたものを含む。)を提出しているときに限り、◆中略◆当該先物取引に係る雑所得等の金額の計算上控除する。
別の記事でも触れましたが、繰越損失の有無で不一致が起きると最長4年分はズレが出るため、キャピタルゲイン・ロスに関しては是正されても仕方ないとは言えます。
上場株式等に触れていても先物取引に関する言及がないのですが、こうなると先物取引でも所得税と一致させないの?という疑問がわいてきます。
納税通知書送達日までの提出規定については、上場株式等や先物取引以外でももっとたくさんあるはずです(居住用財産の譲渡損失の繰越控除など、この手の話は最近は市区町村でまとめているようです。例えば東京都品川区:「納税通知書が送達される時まで」に申告が必要なものについて。)
所得税と一致させるという税制の簡素化が、結果として株式投資家(特に中低所得層)の国民負担を増すことになる点は、政治的センスの問題もあって事務方にはピンとこなかったのでしょうが、上場株式等だけに言及したのは事務方としても努力不足ではないかと。税制簡素化の必要性やメリットがあまり伝わってこないのです。
「ロ その他所要の措置を講ずる。」に先物その他の話が含まれるのかもしれませんが、繰越控除の規定改正は炎上している配当がらみの話とは逆に救済者が出るだけに、触れてほしかったなと。
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