個人所得課税の話題は久々です。
退職金課税がツイッターのトレンドとなって炎上し、さらに後追い記事が量産されました。
しかし実際の政府税調の動画を確認すると、実際に次回の改正にも盛り込まれそうな話は
筆者は違うところにあるとみています。
このブログでしつこく取り上げてきた項目とも関係するでしょうか。
【前提となる知識:まだ議論の段階であって決まっていない】
退職金課税の記事は、10/18の政府税制調査会総会の議論(動画公開は11/1まで)が元になっています。
決定事項は、毎年12月中旬に報道されます。またこれは自民党の税制調査会で決定された税制改正大綱に盛り込まれ、その前後で行われる政府や与党の税制調査会で行われるものは、あくまでも「議論」でしかありません。
【いわゆる勤続の成果としての退職金課税:iDeCo一時金の話は後述】
退職金に対する課税は、本当に強化されるのでしょうか?
この件は理屈を説明した他の方のブログや記事でも散々「火消」されているので、結論を中心に書きます。
増税・減税どっちに転ぶこともありえますし、増税になる人と減税になる人両者出る可能性もあります。動画中継を見ても勤続年数に応じて一律だけでは、なんとも言えないのです。
税制を知っているひとはご存知でしょうが、20年までは1年あたり40万円、21年目以降は70万円の控除があります。
これを年数に関わらず、60万円にしようと主張した委員が1人いました。これだと増税になる人と減税になる人(20年以内で退職した人)両者出ます。
しかし同様の主張をしている他の委員は、60万円を想定していたかはわかりません。
【税制優遇が大きいとされるiDeCoの一時金】
老後資産形成として認知度が高くなってきたiDeCoですが、年金の「足し」として受け取るなら、年金と合算して所得税額の計算を行います。
ただし一時金として受け取るなら、退職金と同様の所得と認識され、税額計算が行われますが、年金として受け取るより税負担が軽くなることが多いです。
一時金形式のほうが年金形式より税負担が軽くなる点については、是正を求める意見が複数の政府税調委員から出ています。
ただしこの話は以前から出ていたように記憶しているので、未だに改正されていないということは、次回にでも改正されるかは疑問です。
しかし問題点としてあがっている以上、勤労による退職金以上に増税リスクは高く、一時金形式の税負担が増えるリスクは念頭においたほうがいいでしょう。
【年金増税(公的年金等控除の縮小)】
年金受給者(特に働きながらもらっている高齢者)の控除が過大だという理屈からの増税論も、複数の政府税調委員から出ています。
この理屈に基づいた税制改正法は平成30年度で成立し、2020年(令和2年)から改正が実施されていますが、政治家からの批判があったのか高所得者を除いて増税にも減税にもならない形に落ち着きました。
今回委員がまたこの話をしたのは、さらなる改正が必要と思われているからです。
実際の税制改正が必ずしも増税とならなかったことを考えると、この話はあまり心配する必要はないように思われます。
【扶養のお話(配偶者控除の見直しなど)】
「103万円の壁」に代表される扶養・パート主婦に関する配偶者(特別)控除の見直し論も、相次いで出ています。
最近ではこの壁と賃金上昇の流れが相まって年末の人手不足が申告になっているとも言われます。
しかしこの話も、見直した結果増税になるとは一概に言えないと思います。
扶養の話は、どうしても従来の制度維持を望む層からの反対の声が強くなります。
従来から見直し論が出ていた中で2018年(平成30年)より配偶者(特別)控除に関する税制改正が実施されていますが、夫(生計維持者)が高所得だと控除適用対象外で増税、そうでない場合は控除額拡大により減税と入り混じるものとなりました。
【住民税の課税対象者拡大:非課税世帯の見直しなど】
コロナ経済対策として住民税非課税世帯への給付が相次いでいますが、非課税世帯ばかり保護されるのはどうなんだという世論も目につくようになりました。
住民税非課税世帯に対する社会保障制度は数多くあり、政府税調においても資料が提示されました。(後ろのほうのページ参照)
そして住民税は地域に対する会費であるという理屈のもと、もう少し課税対象者を拡大すべきではないかという増税論も、複数の政府税調委員から出ています。
前者については、非課税世帯を社会保障制度の基準とする現行制度に対する批判が、退職金課税以上に多くの委員からあがりました。
後者の課税ベース拡大も、退職金課税と同等程度には出ていますし、欠席委員の意見書では課税所得を拡大すべきだとして確認できます。
課税ベース拡大は純粋な増税論ですし、非課税世帯を社会保障制度の基準とすることへの批判は、コロナ禍以降の比較的新しい論点です。
政府税調だけでなく、東京都の税制調査会総会にすら挙がった意見です。(口頭で話題に上った程度で、令和4年度報告にはなし)
<<45:50頃を参照>>
実はこういう世間の批判があまり向いていない純粋増税論こそ、要注意です。
コロナ禍以降の批判(それも多くの委員が挙げたもの)を土台にしている以上、与党税調でも議論になり、次回にでも増税が盛り込まれる素早い改正リスクも予想されます。
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