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実は先送りされてなかった「静かなる金融所得増税」(配当控除改悪とも、多くのマスコミが報じない令和4年度税制改正大綱の中身)

 2021年12月10日に決定された令和4年度税制改正大綱では、金融所得課税の強化は先送りされたというのが大方の見方です。

 しかし実際に詳細を確認すると、配当や株式譲渡益に対して実質的な強化は行われる方向です。しかもこと配当に関しては、高所得者層の負担を上げて歪みを正す政権の狙いとは逆に、概ね大衆課税の側面が強い(性質が悪いとも思える)改正です。

 【問題の個所】

出典:令和4年度税制改正大綱(自民党・公明党)P91

特定配当等は上場株式の配当・公募投信の分配金、特定株式等譲渡所得金額は源泉徴収あり特定口座で発生した譲渡所得と考えてください。

令和6年度以後の個人住民税について適用される方向ですが、住民税は前年所得課税のため、令和5年(2023年)分の所得から適用されます。

【何が問題なのかというと】

例えば上場株式の配当に関しては、総合課税で申告すると配当控除による税軽減で所得税還付金が得られるというお得な方法が知られています。

ただし実際に得になるのは課税所得が一定水準以下の方で、この水準は695万円とも900万円とも言われています。

2つの数字がありますが、695万円は所得税・住民税とも総合課税で申告した場合 、900万円は所得税は総合課税で申告し、住民税では別途申告不要を申し出た場合です。

所得税と一致しない課税方式で申告することで、695万円超900万円の方でもお得になり、695万円以下の方でもよりお得になるのですが、この節税策を封じる改正と言えます。 

金融所得の数値を所得税と住民税で変わらないようにするのは税制の簡素化から考えてもあるべき姿とは言えますが、結果として大衆課税の強化に向かうのは富裕層の負担を強化したい政権方針とのズレもあり、富裕層とは言えない投資家に悪い印象を与える可能性は否めません。 

ネットではこの一件で与党に対する不信感の声も見受けられ、税率上昇といった負担増の王道を先送りした割に、株式投資その他の金融投資に悪影響を与える可能性も出てきました

 ただし所要の経過措置を講ずるとあるのが気になります少なくとも低所得者の軽減が大きくな所得税は総合課税住民税はその全部を申告不要という選択肢だけでも残すような経過措置だといいのですが・・・

 【改正の背景を推察】
国民健康保険料・後期高齢者医療保険料・65歳以上の介護保険料などほぼ全所得を基準とした公的保険料は、住民税の所得情報をベースに計算されます。

所得税と住民税で異なる課税方式をとることで、 申告者にとっては住民税の所得を申告不要申出により所得税より少なくして保険料を抑え、所得税では配当控除による還付効果を高くとれるメリットがあります。

しかし所得税と住民税では所得の数値が異なってくる、また申告不要申出を受け付けることで、住民税を賦課する市区町村の負担が増してくる問題点もあります。税理士にとっても、有利な課税方式を選択するための試算を行う負担がのしかかってきます。

所得税と住民税で課税方式を変えることで、株式譲渡により生じた繰越損失の数値まで変わってくることさえあります。

こうなると繰越控除が有効な3年間にわたり両者の損失額を、申告者・賦課徴収者の両者が管理する必要があり、こうした意味では金融所得課税は非常に複雑な税制になっているとも言えます。

推測ですが、負担の大きかった市区町村や税理士業界から税制簡素化の要望があったと思われます。

どちらかというと現場負担にかかわる話(税制改正の中では政治家があまり関与しない、事務方丸投げ的な案件)だったと見受けられるため、税制改正大綱では基本的な考え方を説明しないまま具体的な内容で改正を定めた感じになっています。

これも推測ですが、政治家側に詳細が知らされずに官僚(おそらく財務省では無く総務省の)が決めたような文章に見受けられるのですが、金融所得課税の強化が焦点となった今年度では、税制簡素化という狙いの説明不足感を強く感じます。

【私なりに思うこと・提案】

キャピタル・ゲインやキャピタル・ロス(譲渡損益のほか、申告分離課税の利子配当)が国税(所得税)と地方税(住民税)で違ってくるというのは、普通に考えておかしいというのは仕方ないです。

繰越損失が絡んできて単年度で済まない管理の煩雑さを考えれば、国税地方税で一致させるべきでしょう。これは大綱のとおり。

ただ一方でインカムゲインとされる総合課税選択の配当は、所得が低いほど税額軽減効果も高くなりますし、これが絡む節税策を封じるのは政権方針と逆行してしまい、今後の金融所得課税強化をかえって阻害しかねません。

さらに未公開株(非上場株式)の少額配当には所得税のみ申告不要特例があり、この特例を使えば、国税地方税で所得のズレは生じます。ならば上場株でズレが駄目だと否定する根拠も弱いのです。

単年度の配当所得のズレ程度であれば、市区町村や税理士の負担もそんなに重くはならないはずです。

もっとも上場株の申告不要制度も、少額のみ認める・全部の申告不要以外は認めないという方向はありえます。

金融所得課税強化を通じて所得再分配をはかろうとする政権の方針が誤解されないように、政府の閣議決定までには軌道修正されると良いですがね・・・


【異なる課税方式をとるメリットの詳細】 

この点については、概要レベルですでにお話はしてきましたが、より詳細な解説は後日追って行いたいと思います。

すでに分析結果を出しているブログも見受けられますので、参考までにそちらを読まれても良いと思います。 

「配当控除の改悪 住民税申告不要が使えなくなる」資産形成・運用の第一歩

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